ケーススタディ(一般論)

相続開始の直前にリフォームをしていたとき
工事費は相続財産にどう反映させるか

支払済みのリフォーム費用は計上しなくてよいのか、
相続開始の時点で工事が始まっていなかったらどうなるのか。
国税庁の質疑応答事例と、裁決・裁判例をもとに整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、
工事請負契約書・見積内訳書・固定資産税の評価証明書などを確認したうえで行う必要があります。
法令等は2026年10月26日時点で確認しています。

結論

先に結論

支払済みであることを理由に、計上不要とはならないと考えられます。
預金は減っていますが、工事によって家屋の価値が増えていれば、
その分を家屋の評価に上乗せするのが、国税庁の示す取扱いです。

ただし、どの工事が上乗せの対象となる「増改築等」に当たるかについて、国税庁の明文の基準はありません。
価値を高める工事は加算し、原状回復にとどまる修繕は加算不要とする余地がある、という整理になります。

相続開始の時点で未着工なら、家屋は既存の固定資産税評価額のままです。
支払った金額は、前払金として支払額で財産に計上するのが穏当と考えられます。

質問ごとの答え

Q1
支払済みのリフォーム費用は、計上しなくてよいか工事が家屋の価値を高めるもので、固定資産税評価額に反映されていなければ、
増改築等の部分の価額を家屋の評価額に加算します。
類似の家屋がなければ、加算額は(再建築価額-償却費相当額)×70%です。
原状回復にとどまる修繕なら、加算不要とする余地があります。
Q2
相続開始の時点で、工事が始まっていなかったら家屋は既存の固定資産税評価額のままで評価します。
支払った金額は、工事をしてもらう権利(前払金)として、支払額で計上します。
70%評価や償却はないため、完成後に相続が始まった場合より評価額は高くなります。
Q3
未払の工事代金は、債務控除できるか工事完了後の未払代金は債務控除できます。
未着工の代金は「確実と認められる債務」かが争点で、
債務控除を認めた地裁判決はありますが、個別の事情によります。

詳しい回答は詳細タブの1章へ

場合分けの一覧

相続開始時の状況家屋の評価支払済み・未払の代金注意
A 完了・支払済み
(価値を高める工事)
加算する
既存の固定資産税評価額+増改築等の部分の価額
家屋に反映済みのため、別途の計上なし申告期限までに評価額が改訂されたら、その額による
B 完了・支払済み
(原状回復の修繕)
加算不要の余地
既存の固定資産税評価額のまま
計上なし工事内容が修繕であることを示す資料を残す
C 工事完了・未払いA・Bと同じ債務控除
未払の工事代金
請求書・契約書で金額を確定
D 工事中進捗に応じて評価
完了部分は70%評価、工事中部分は再建築価額×進捗率×70%(裁決例)
前払金のうち、完了・工事中部分に相当する額を除いた残額を計上相続開始日の進捗を業者の書面で確定
E 未着工・支払済み既存の固定資産税評価額のまま前払金として計上
支払額で評価
70%評価・償却はない
F 未着工・未払い既存の固定資産税評価額のまま債務控除は争点
確実と認められるかによる
修繕義務・工期の事情など、履行が確実といえる材料が要る

計算方法は詳細タブの4章へ、工事中・未着工の扱いは6章へ

手続上の注意

見落としやすい3点
  • 「固定資産税評価額が上がっていないから、加算しなくてよい」とはなりません。
    評価額に反映されていないことこそが、加算が必要になる前提です。
    加算不要といえるのは、工事がそもそも増改築等に当たらない場合です(詳細タブの3章)。
  • 未着工の前払金は、支払額の全額が財産になります。
    完成していれば工事費の7割弱の加算で済むところ、
    着工前に相続が始まると、評価が下がる効果は生じません(詳細タブの6章)。
  • 家屋の名義が被相続人でなければ、別の論点になります。
    子の家のリフォーム費用を親が負担していた場合などは、
    家屋の評価ではなく、贈与(みなし贈与)と生前贈与加算の問題です(詳細タブの8章)。

主な確認事項

  1. 相続開始日時点の工事の状況(未着工・工事中・完了)
  2. 工事の内容と工事項目ごとの金額(増築・間取り変更・設備の新設か、原状回復か)
  3. 家屋の名義(被相続人か、それ以外の親族か)と、自宅か賃貸用か
  4. 代金の支払状況(全額支払済み・着手金のみ・未払い)
  5. 申告期限までに、工事を反映した固定資産税評価額が付されたか

確認事項の全件は詳細タブの10章へ

1 質問への回答(詳しく)

Q1 支払済みのリフォーム費用は、計上しなくてよいか

相続開始の直前にリフォーム代金を支払うと、預金はその分だけ減ります。
一方で、工事によって家屋の価値が増えていれば、相続財産の総額は大きくは変わっていません。
そのため、支払済みであることだけを理由に、何も計上しないという扱いにはならないと考えられます。

家屋は固定資産税評価額で評価しますが、床面積が増えないリフォームなどでは、評価額が改訂されないことが多くあります。
国税庁は、このように増改築等の状況が固定資産税評価額に反映されていない家屋について、
増改築等の部分の価額を加算して評価する取扱いを示しています。

ただし、加算の対象となる「増改築等」の範囲は、明文で定められていません。
家屋の価値を高める工事は加算し、原状回復にとどまる修繕は加算しない余地がある、という整理になります。

Q2 相続開始の時点で、工事が始まっていなかったら

工事が始まっていなければ、増改築等の部分はまだ存在しません。
家屋は既存の固定資産税評価額のままで評価します。

支払った代金は、請負契約に基づく前払金です。
工事をしてもらう権利であり、解約すれば返還を求める権利でもあるため、支払額で財産に計上するのが穏当と考えられます。
家屋に加算する場合と違い、70%評価や償却費の控除はありません。

Q3 未払の工事代金は、債務控除できるか

工事が完了していれば、未払の代金は被相続人の確実な債務として、債務控除の対象になります。
未着工の代金は、注文者が完成前に契約を解除できることから、「確実と認められる債務」かどうかが争点になります。
債務控除を認めた地裁判決がありますが、修繕義務や工期の事情を踏まえた個別の判断です(7章)。

2 事例の前提

家屋の名義が被相続人以外(例えば子)である場合は、8章の別の論点になります。

3 国税庁の取扱い(増改築等の加算)

家屋の評価の原則

家屋の価額は、固定資産税評価額に倍率(1.0)を乗じて計算します(財産評価基本通達89)。
貸家であれば、そこから借家権割合と賃貸割合に応じた額を控除します(同93)。

増改築等が評価額に反映されていない場合

国税庁の質疑応答事例「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」は、次のように示しています。

質疑応答事例の要旨

増改築等に係る部分以外の部分に対応する固定資産税評価額に、
増改築等に係る部分の価額を加算した価額に基づき、
財産評価基本通達89(家屋)または93(貸家)により評価する。

課税時期から申告期限までの間に、課税時期の状況に応じた固定資産税評価額が付された場合は、その固定資産税評価額による。

この取扱いは、評価方法の定めのない財産を通達に準じて評価するという定め(財産評価基本通達5)に基づくもので、
各国税局が公表する「家屋の固定資産税評価額に乗ずる倍率」の注書きにも、同じ趣旨が記載されています。

固定資産税評価額が据え置かれることの意味

固定資産税では、床面積の増加を伴う増築などは評価し直されますが、
内装や設備の工事は、評価額に反映されないことが少なくありません。

ここで注意したいのは、「固定資産税評価額が据え置かれているから、加算は不要」という理由づけは成り立たないことです。
上の取扱いは、評価額が増改築等の状況を反映していない場合にこそ、加算を求めるものだからです。
加算不要といえるのは、工事が増改築等に当たらない場合、つまり家屋の価値を高めていない場合です(5章)。

4 加算額の計算と計算例

増改築等の部分の価額

類似の家屋がある場合状況の類似した付近の家屋の固定資産税評価額を基に、
構造・経過年数・用途等の差を考慮して評定した価額
類似の家屋がない場合増改築等の部分の再建築価額から、
課税時期までの償却費相当額を控除した価額の70%
(実務上は、こちらによることが多いと思われます)
償却費相当額再建築価額×0.9×経過年数÷耐用年数
(財産評価基本通達89-2(2)に準ずる)
経過年数増改築等の時から課税時期までの年数。
1年未満の端数は1年とする
耐用年数減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定める、その家屋の耐用年数
(例:木造の住宅用建物は22年)

計算例

工事費1,000万円、木造住宅(耐用年数22年)、工事完了の直後に相続が開始した場合です。

経過年数1年未満のため、1年
償却費相当額1,000万円×0.9×1/22≒40.9万円
加算額(1,000万円-40.9万円)×70%≒671万円

既存部分の固定資産税評価額に、この671万円を加えた額が家屋の評価額になります。
賃貸用の家屋であれば、加算後の額を基に貸家の評価(借家権割合×賃貸割合の控除)を行います。

計算上の注意

5 加算の対象となる工事の見分け方

「増改築等」の範囲を定めた国税庁の資料は見当たりません。
工事項目ごとに、家屋の価値を高めたかどうかで判断することになります。

工事の例扱いの目安考え方
増築、間取り変更、バルコニーの新設加算する方向家屋の構造・規模が変わり、価値が増える
設備の新設、上位の設備への交換
(システムキッチン、ユニットバス、床暖房など)
加算する方向家屋と構造上一体の設備は家屋の価額に含まれる(財産評価基本通達92(1))
内装の張替えと水回り設備の交換の組合せ工事項目ごとに切り分け同等品への交換は修繕、グレードアップ部分は加算、と分けて考える
壁紙の張替え、塗装、故障箇所の同等品への交換加算不要の余地原状回復にとどまり、価値が増えたとみる必要がない場合がある

所得税の資本的支出と修繕費の区分(固定資産の価値を高め、または耐久性を増す部分を資本的支出とする考え方)は、
判断の参考にはなります。
ただし、相続税評価の基準として示されたものではないため、それだけで結論を決めることはできません。

区分が微妙な場合は、見積内訳書を基に工事項目ごとの金額を切り分け、
判断の根拠を書面に残しておくことが、税務調査での説明に役立ちます。

6 工事中・未着工の場合

未着工の場合

増改築等の部分がまだ存在しないため、家屋は既存の固定資産税評価額のままで評価します。
支払った代金は、請負契約に基づく前払金として、支払額で財産に計上するのが穏当と考えられます。

財産評価基本通達204は、「貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの」を、
元本の価額で評価するとしています。
工事代金の前払金も、これに類するものとして整理できます(国税庁の明文の取扱いはありません)。

家屋に加算する場合は70%評価と償却がありますが、前払金にはどちらもありません。
完成後に相続が始まれば工事費の7割弱の加算で済むところ、未着工なら支払額の全額が財産になります。

工事中の場合(裁決例)

改修工事の途中で相続が開始した貸家について、評価方法を示した裁決があります(平成28年12月7日裁決)。
財産評価基本通達5により、89-2と93に準じて、次のように評価しています。

工事が完了した部分再建築価額から償却費相当額を控除した額の70%
工事中の部分再建築価額に工事の進捗率(着工から竣工までの日数のうち、相続開始日までの日数の割合)を乗じた額の70%
着手前の部分既存の固定資産税評価額を基に評価
前払金完了部分と工事中部分に相当する建築費用を控除し、残額を財産に計上

新築の建築中の家屋は「費用現価の70%」で評価する定め(財産評価基本通達91)がありますが、
既存家屋の改修工事中は、この裁決のように進捗に応じて評価する考え方が参考になります。
相続開始日時点の進捗を、業者の書面などで確定させておくことが大切です。

7 未払代金の債務控除

相続税の債務控除は、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもののうち、
確実と認められるものに限られます(相続税法13条1項1号、14条1項)。

工事完了後の未払代金

工事が完了していれば、代金の支払義務は確定しているため、債務控除の対象になります。
家屋の評価は、3章・4章の加算を行ったうえで計算します。

未着工の未払代金

注文者は工事の完成前であれば契約を解除できるため、
課税庁は、未着工の請負代金は確実な債務とはいえないとして、債務控除を否認する立場をとることがあります。

これに対し、福井地裁令和7年11月5日判決(確定)は、相続開始時に未着工だった修繕工事の請負代金について、債務控除を認めました。

判決の要旨(専門誌の紹介記事による)
  • 賃貸倉庫の床の沈下を直す修繕工事で、請負契約は相続開始前に締結されていた
  • 借主の要望で工期が延び、相続開始時には未着工だった
  • 債務の形式だけでなく、債務が生じた経緯も考慮すべきとした
  • 被相続人に修繕義務があったこと、工期の延期がなければ相続開始前に完了していたと見込まれること、
    相続後に実際に施工されたことから、履行は確実と判断した

もっとも、一審の個別事案であり、修繕義務のない任意のリフォームで同じ判断になるとは限りません。
また、債務控除を主張する場合は、対応する「工事を受ける権利」を財産に計上すべきかも、あわせて検討が必要です。

8 周辺論点

被相続人以外の名義の家屋をリフォームした場合

子など被相続人以外の名義の家屋の工事費を被相続人が負担した場合、工事部分は家屋の所有者のものになります(民法242条の付合)。
そのため、家屋の評価の問題ではなく、家屋の所有者への贈与(相続税法9条のみなし贈与)の論点になります。

相続や遺贈で財産を取得した人への贈与であれば、生前贈与加算(相続税法19条)の対象になります。
加算期間は、令和8年12月31日までの相続開始なら3年以内で、その後、段階的に7年以内へ延びます。

賃貸用の家屋

加算後の家屋の価額を基に、貸家として評価します(財産評価基本通達93)。
なお、令和9年1月1日以後の相続については、相続開始前5年以内に取得等した貸付用不動産を、
取得価額を基に評価する見直しの通達案が、令和8年9月に公表されています。
増改築がこの見直しの対象になるかは、確定した通達で確認する必要があります。

相続人が工事費を負担した場合

被相続人名義の家屋の工事費を相続人が負担した場合も、家屋は被相続人の財産として加算して評価します。
相続人が負担した分を、立替金とみるか贈与とみるかは、別に検討が必要です。

9 根拠条文・通達・裁判例の整理

根拠内容
財産評価基本通達5評価方法の定めのない財産は、通達に定める評価方法に準じて評価する
財産評価基本通達89家屋は固定資産税評価額に倍率(1.0)を乗じて評価する
財産評価基本通達89-2文化財建造物の評価。償却費相当額の計算方法((2))を、増改築等の部分の評価で準用する
財産評価基本通達91建築中の家屋は、費用現価の70%で評価する
財産評価基本通達92(1)家屋と構造上一体の電気・ガス・衛生・給排水設備などは、家屋の価額に含めて評価する
財産評価基本通達93貸家は、家屋の価額から借家権割合×賃貸割合に相当する額を控除して評価する
財産評価基本通達204貸付金・仮払金その他これらに類するものは、元本の価額と利息の価額の合計額で評価する
国税庁 質疑応答事例増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価
相続税法13条・14条債務控除は、相続開始の際に現に存し、確実と認められる債務に限る
相続税法9条・19条みなし贈与、相続開始前の贈与財産の加算
平成28年12月7日裁決改修工事中の貸家を、完了部分・工事中部分・着手前部分に分けて評価し、前払金の残額を計上
福井地裁令和7年11月5日判決(確定)相続開始時に未着工だった修繕工事の請負代金について、履行が確実として債務控除を認めた

10 確認事項の全件

  1. 相続開始日時点の工事の状況(未着工・工事中・完了)と、それを示す業者の書面
  2. 工事請負契約書と見積内訳書(工事項目ごとの金額)
  3. 工事の内容(増築・間取り変更・設備の新設やグレードアップか、原状回復か)
  4. 代金の支払状況(全額支払済み・着手金のみ・未払い)と、請求書・振込記録
  5. 家屋の名義(被相続人か、それ以外の親族か)と、工事費を誰が負担したか
  6. 自宅か賃貸用か。賃貸用なら賃貸割合
  7. 申告期限までに、工事を反映した固定資産税評価額が付されたか(評価証明書・名寄帳で確認)
  8. 家屋と構造上一体でない設備や家具・家電が、工事費に含まれていないか
  9. 未着工の場合、契約の解約条件・違約金の定め、修繕義務の有無、工期が延びた事情
  10. 補助金を受けている場合は、その金額と、工事費との関係

11 出典