支払済みのリフォーム費用は計上しなくてよいのか、
相続開始の時点で工事が始まっていなかったらどうなるのか。
国税庁の質疑応答事例と、裁決・裁判例をもとに整理しました。
支払済みであることを理由に、計上不要とはならないと考えられます。
預金は減っていますが、工事によって家屋の価値が増えていれば、
その分を家屋の評価に上乗せするのが、国税庁の示す取扱いです。
ただし、どの工事が上乗せの対象となる「増改築等」に当たるかについて、国税庁の明文の基準はありません。
価値を高める工事は加算し、原状回復にとどまる修繕は加算不要とする余地がある、という整理になります。
相続開始の時点で未着工なら、家屋は既存の固定資産税評価額のままです。
支払った金額は、前払金として支払額で財産に計上するのが穏当と考えられます。
詳しい回答は詳細タブの1章へ
| 相続開始時の状況 | 家屋の評価 | 支払済み・未払の代金 | 注意 |
|---|---|---|---|
| A 完了・支払済み (価値を高める工事) | 加算する 既存の固定資産税評価額+増改築等の部分の価額 | 家屋に反映済みのため、別途の計上なし | 申告期限までに評価額が改訂されたら、その額による |
| B 完了・支払済み (原状回復の修繕) | 加算不要の余地 既存の固定資産税評価額のまま | 計上なし | 工事内容が修繕であることを示す資料を残す |
| C 工事完了・未払い | A・Bと同じ | 債務控除 未払の工事代金 | 請求書・契約書で金額を確定 |
| D 工事中 | 進捗に応じて評価 完了部分は70%評価、工事中部分は再建築価額×進捗率×70%(裁決例) | 前払金のうち、完了・工事中部分に相当する額を除いた残額を計上 | 相続開始日の進捗を業者の書面で確定 |
| E 未着工・支払済み | 既存の固定資産税評価額のまま | 前払金として計上 支払額で評価 | 70%評価・償却はない |
| F 未着工・未払い | 既存の固定資産税評価額のまま | 債務控除は争点 確実と認められるかによる | 修繕義務・工期の事情など、履行が確実といえる材料が要る |
確認事項の全件は詳細タブの10章へ
相続開始の直前にリフォーム代金を支払うと、預金はその分だけ減ります。
一方で、工事によって家屋の価値が増えていれば、相続財産の総額は大きくは変わっていません。
そのため、支払済みであることだけを理由に、何も計上しないという扱いにはならないと考えられます。
家屋は固定資産税評価額で評価しますが、床面積が増えないリフォームなどでは、評価額が改訂されないことが多くあります。
国税庁は、このように増改築等の状況が固定資産税評価額に反映されていない家屋について、
増改築等の部分の価額を加算して評価する取扱いを示しています。
ただし、加算の対象となる「増改築等」の範囲は、明文で定められていません。
家屋の価値を高める工事は加算し、原状回復にとどまる修繕は加算しない余地がある、という整理になります。
工事が始まっていなければ、増改築等の部分はまだ存在しません。
家屋は既存の固定資産税評価額のままで評価します。
支払った代金は、請負契約に基づく前払金です。
工事をしてもらう権利であり、解約すれば返還を求める権利でもあるため、支払額で財産に計上するのが穏当と考えられます。
家屋に加算する場合と違い、70%評価や償却費の控除はありません。
工事が完了していれば、未払の代金は被相続人の確実な債務として、債務控除の対象になります。
未着工の代金は、注文者が完成前に契約を解除できることから、「確実と認められる債務」かどうかが争点になります。
債務控除を認めた地裁判決がありますが、修繕義務や工期の事情を踏まえた個別の判断です(7章)。
家屋の名義が被相続人以外(例えば子)である場合は、8章の別の論点になります。
家屋の価額は、固定資産税評価額に倍率(1.0)を乗じて計算します(財産評価基本通達89)。
貸家であれば、そこから借家権割合と賃貸割合に応じた額を控除します(同93)。
国税庁の質疑応答事例「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」は、次のように示しています。
増改築等に係る部分以外の部分に対応する固定資産税評価額に、
増改築等に係る部分の価額を加算した価額に基づき、
財産評価基本通達89(家屋)または93(貸家)により評価する。
課税時期から申告期限までの間に、課税時期の状況に応じた固定資産税評価額が付された場合は、その固定資産税評価額による。
この取扱いは、評価方法の定めのない財産を通達に準じて評価するという定め(財産評価基本通達5)に基づくもので、
各国税局が公表する「家屋の固定資産税評価額に乗ずる倍率」の注書きにも、同じ趣旨が記載されています。
固定資産税では、床面積の増加を伴う増築などは評価し直されますが、
内装や設備の工事は、評価額に反映されないことが少なくありません。
ここで注意したいのは、「固定資産税評価額が据え置かれているから、加算は不要」という理由づけは成り立たないことです。
上の取扱いは、評価額が増改築等の状況を反映していない場合にこそ、加算を求めるものだからです。
加算不要といえるのは、工事が増改築等に当たらない場合、つまり家屋の価値を高めていない場合です(5章)。
工事費1,000万円、木造住宅(耐用年数22年)、工事完了の直後に相続が開始した場合です。
既存部分の固定資産税評価額に、この671万円を加えた額が家屋の評価額になります。
賃貸用の家屋であれば、加算後の額を基に貸家の評価(借家権割合×賃貸割合の控除)を行います。
「増改築等」の範囲を定めた国税庁の資料は見当たりません。
工事項目ごとに、家屋の価値を高めたかどうかで判断することになります。
| 工事の例 | 扱いの目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 増築、間取り変更、バルコニーの新設 | 加算する方向 | 家屋の構造・規模が変わり、価値が増える |
| 設備の新設、上位の設備への交換 (システムキッチン、ユニットバス、床暖房など) | 加算する方向 | 家屋と構造上一体の設備は家屋の価額に含まれる(財産評価基本通達92(1)) |
| 内装の張替えと水回り設備の交換の組合せ | 工事項目ごとに切り分け | 同等品への交換は修繕、グレードアップ部分は加算、と分けて考える |
| 壁紙の張替え、塗装、故障箇所の同等品への交換 | 加算不要の余地 | 原状回復にとどまり、価値が増えたとみる必要がない場合がある |
所得税の資本的支出と修繕費の区分(固定資産の価値を高め、または耐久性を増す部分を資本的支出とする考え方)は、
判断の参考にはなります。
ただし、相続税評価の基準として示されたものではないため、それだけで結論を決めることはできません。
区分が微妙な場合は、見積内訳書を基に工事項目ごとの金額を切り分け、
判断の根拠を書面に残しておくことが、税務調査での説明に役立ちます。
増改築等の部分がまだ存在しないため、家屋は既存の固定資産税評価額のままで評価します。
支払った代金は、請負契約に基づく前払金として、支払額で財産に計上するのが穏当と考えられます。
財産評価基本通達204は、「貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの」を、
元本の価額で評価するとしています。
工事代金の前払金も、これに類するものとして整理できます(国税庁の明文の取扱いはありません)。
家屋に加算する場合は70%評価と償却がありますが、前払金にはどちらもありません。
完成後に相続が始まれば工事費の7割弱の加算で済むところ、未着工なら支払額の全額が財産になります。
改修工事の途中で相続が開始した貸家について、評価方法を示した裁決があります(平成28年12月7日裁決)。
財産評価基本通達5により、89-2と93に準じて、次のように評価しています。
新築の建築中の家屋は「費用現価の70%」で評価する定め(財産評価基本通達91)がありますが、
既存家屋の改修工事中は、この裁決のように進捗に応じて評価する考え方が参考になります。
相続開始日時点の進捗を、業者の書面などで確定させておくことが大切です。
相続税の債務控除は、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもののうち、
確実と認められるものに限られます(相続税法13条1項1号、14条1項)。
工事が完了していれば、代金の支払義務は確定しているため、債務控除の対象になります。
家屋の評価は、3章・4章の加算を行ったうえで計算します。
注文者は工事の完成前であれば契約を解除できるため、
課税庁は、未着工の請負代金は確実な債務とはいえないとして、債務控除を否認する立場をとることがあります。
これに対し、福井地裁令和7年11月5日判決(確定)は、相続開始時に未着工だった修繕工事の請負代金について、債務控除を認めました。
もっとも、一審の個別事案であり、修繕義務のない任意のリフォームで同じ判断になるとは限りません。
また、債務控除を主張する場合は、対応する「工事を受ける権利」を財産に計上すべきかも、あわせて検討が必要です。
子など被相続人以外の名義の家屋の工事費を被相続人が負担した場合、工事部分は家屋の所有者のものになります(民法242条の付合)。
そのため、家屋の評価の問題ではなく、家屋の所有者への贈与(相続税法9条のみなし贈与)の論点になります。
相続や遺贈で財産を取得した人への贈与であれば、生前贈与加算(相続税法19条)の対象になります。
加算期間は、令和8年12月31日までの相続開始なら3年以内で、その後、段階的に7年以内へ延びます。
加算後の家屋の価額を基に、貸家として評価します(財産評価基本通達93)。
なお、令和9年1月1日以後の相続については、相続開始前5年以内に取得等した貸付用不動産を、
取得価額を基に評価する見直しの通達案が、令和8年9月に公表されています。
増改築がこの見直しの対象になるかは、確定した通達で確認する必要があります。
被相続人名義の家屋の工事費を相続人が負担した場合も、家屋は被相続人の財産として加算して評価します。
相続人が負担した分を、立替金とみるか贈与とみるかは、別に検討が必要です。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 財産評価基本通達5 | 評価方法の定めのない財産は、通達に定める評価方法に準じて評価する |
| 財産評価基本通達89 | 家屋は固定資産税評価額に倍率(1.0)を乗じて評価する |
| 財産評価基本通達89-2 | 文化財建造物の評価。償却費相当額の計算方法((2))を、増改築等の部分の評価で準用する |
| 財産評価基本通達91 | 建築中の家屋は、費用現価の70%で評価する |
| 財産評価基本通達92(1) | 家屋と構造上一体の電気・ガス・衛生・給排水設備などは、家屋の価額に含めて評価する |
| 財産評価基本通達93 | 貸家は、家屋の価額から借家権割合×賃貸割合に相当する額を控除して評価する |
| 財産評価基本通達204 | 貸付金・仮払金その他これらに類するものは、元本の価額と利息の価額の合計額で評価する |
| 国税庁 質疑応答事例 | 増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価 |
| 相続税法13条・14条 | 債務控除は、相続開始の際に現に存し、確実と認められる債務に限る |
| 相続税法9条・19条 | みなし贈与、相続開始前の贈与財産の加算 |
| 平成28年12月7日裁決 | 改修工事中の貸家を、完了部分・工事中部分・着手前部分に分けて評価し、前払金の残額を計上 |
| 福井地裁令和7年11月5日判決(確定) | 相続開始時に未着工だった修繕工事の請負代金について、履行が確実として債務控除を認めた |